実測データ全公開

2026-08-02 ・ teai.io ・ 総実行 約12,000回 / 費用 $33

解説記事で使った数字の元データです。 都合の悪い結果、外した仮説、自社ベンチマークの欠陥も全部そのまま載せています。 数字を疑えるように、条件(設問数・反復回数・振れ幅)を必ず添えました。

  1. 評価セットの作り方
  2. タスク型別(182問 × 8戦略 × 3回)
  3. エスカレーションは発火していたか
  4. 根拠を渡すとどうなるか(51ペアの対照実験)
  5. 表の渡し方 5案
  6. 決定性 — 安いモデルは同じ間違いをする
  7. 上げ先モデルの総当たり(11モデル)
  8. コストを積んだらどうなるか
  9. 業界別(99問 × 10戦略 × 3回)
  10. 測定の揺れ — 主張できなかったこと
  11. 本番実装での検証
  12. 自社ベンチマークの欠陥 2件

01評価セットの作り方

正解を手で書かないための設計

182問。正解はすべてコードで計算しています。手で書いた正解は、書いた人の知識の上限で頭打ちになるからです。

タスク型問数中身正解の作り方
計算94消費税・源泉徴収・面積換算・割増賃金・暦日/営業日Decimal で計算
計算(表参照)41祝日込み営業日・送料表・法定表を設問中に掲載同上(表も生成)
知識(仕様)30Python評価・SQL・正規表現の挙動実際に実行
記憶(法定値)17労基法39条の付与日数・割増率・法定労働時間e-Gov 条文から抽出して照合

うち17問は「根拠の表あり/なし」のペアになっています(→ 04)。全問を別実装で再検算し、不一致0件を確認済み。

02タスク型別

182問 × 8戦略 × 3回 ・ コストは3回分の総額

戦略知識
(仕様)
計算計算
(表参照)
記憶
(法定値)
総合コスト
max_sc5100.098.2100.0100.099.6$14.15
verify_fix100.097.9100.0100.099.5$1.04
single:gpt56100.097.9100.0100.099.5$0.83
routed95.697.999.2100.098.2$0.74
single:sonnet5100.095.0100.090.296.3$0.95
single:flash97.895.487.080.490.1$0.014
cascade_knowledge96.794.365.966.780.9$0.031
cascade96.792.668.362.780.1$0.038

この時点では cascade(自己申告カスケード)が表参照と記憶で崩れています。原因は 0305。 なお single:gpt56 が verify_fix と同点で安い、という結果は「束ねる意味があるのか」という問いを突きつけます。

03エスカレーションは発火していたか

182問 ・ 「上げる」と判定した割合

安いモデルが落とす58問で数えると、自己申告のエスカレーションは 2/58 = 3% しか発火していませんでした

安いモデル素で          39/58   67.2%
安いモデル+自己申告      38/58   65.5%
エスカレーション最終     38/58   65.5%   ← 何もしていないのと同じ

判定させる対象を「自分の答えは正しいか」から「この質問は暗記知識を要求するか」に変えると、こうなります。

タスク型n質問分類で上げる自己申告で上げる
記憶(法定値)1794%0%
計算940%4%
計算(表参照)4141%0%
知識(仕様)3033%0%

必要なところで上がり、純粋な計算では一度も上がりません。表参照・仕様で上がるのは過剰で、コストが増えるだけ(精度は落ちない)。この指標は正答率ではなく判定の発火率なので、10 の揺れの影響を受けません。

04根拠を渡すとどうなるか

同じ問いを「根拠の表あり/なし」でペアにした対照実験 ・ 各51問

戦略表なし(記憶)表あり(読解)
cascade62.7100.0+37.3
cascade_knowledge66.7100.0+33.3
single:flash80.4100.0+19.6
single:sonnet590.2100.0+9.8
single:gpt56100.0100.0±0
routed100.0100.0±0
verify_fix100.0100.0±0
max_sc5($8.24)100.0100.0±0

51問中51問、例外なく100%。 $8.24 かけて5本振って得られる100%を、$0.014 のモデルが出します。

ただし本物の条文では届きません

上の表は整形済みです。e-Gov 法令API から原文のまま注入して測り直しました。

設問n条文なし条文あり(原文)
年次有給休暇2114.371.4
法定労働時間18100.0100.0
割増率12100.091.7
第三十九条 …十労働日の有給休暇を与えなければならない。
 継続勤務年数一年ごとに、前項の日数に、次の表の…労働日を加算した…
  一年 → 一労働日 / 二年 → 二労働日 / …

法定表は総日数ではなく加算日数漢数字で書いています。だから整形済みの表(100%)に負けます。 割増率が悪化したのは、労基法37条が「二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率」としか書いておらず、答えが条文に無いためです。間違った文書を渡すと逆効果になります。

05表の渡し方 5案

祝日込みの営業日計算 12問 × 3回 ・ 安いモデル(DeepSeek V4 Flash)

表の渡し方正答率
A 現行(祝日17件を並べて渡す)0.0%
B 関係する祝日だけに絞る8.3%
C 祝日に曜日を付ける0.0%
D 1日ずつ列挙させる100.0%
E カレンダーを作って渡す100.0%

表を絞っても曜日を付けても効かず、列挙させることだけが効きました。 安いモデルは表を使えないのではなく、一発で数えようとして落としていた。

06決定性 — 同じ間違いをする

18問 × 12回 ・ temperature 0

設問答えの種類多数派正答
税込計算(6問すべて)1100%12/12
営業日計算・祝日あり1100%0/12
年次有給休暇1100%0/12

決定的な設問は 13/18(72%)。安いモデルはランダムに間違えているのではありません。確信を持って、一貫して、同じ間違いをします。

これは対策の選択を変えます

同じモデルを複数回振って多数決を取る方式は、この失敗には一切効きません。 12回振っても12回同じ誤答が返るだけです。「安いモデルを何度か振って一致したら採用」は ランダムな取りこぼしには効きますが、体系的な誤りには無力で、安いモデルの失敗の多くは後者でした。

07上げ先モデルの総当たり

記憶(法定値)設問のみ ・ 17問 × 11モデル × 5回 = 935コール

モデル正答正答率935コールの総額カタログ単価
claude-fable-585/85100.0%$0.160$10 / $50
google/gemini-3.1-pro85/85100.0%$0.169$1 / $6
openai/gpt-5.6-sol81/8595.3%$0.070$2.50 / $15
moonshotai/kimi-k381/8595.3%$0.147$3 / $15
x-ai/grok-4.580/8594.1%$0.156$2 / $6
claude-sonnet-579/8592.9%$0.038$3 / $15
z-ai/glm-5.278/8591.8%$0.051$0.91 / $2.85
deepseek/deepseek-v4-pro77/8590.6%$0.023$0.43 / $0.87
sakana/fugu-ultra76/8589.4%$2.820$5 / $30
deepseek-v4-flash58/8568.2%$0.001$0.09 / $0.18
qwen/qwen3.5-397b40/8547.1%$0.004$0.39 / $2.34

Qwen3.5 の 47.1% は「日本の法令固有値には使えない」という意味です。一般的なベンチマークの順位と、この種の設問の順位は一致しません。 Fable 5 と Gemini 3.1 Pro が同率100%で、単価が1/10の Gemini を採用しました。

08コストを積んだらどうなるか

99問 × 8戦略 × 3回

戦略経理
税務
人事
労務
法務
契約
EC
物流
不動産
建築
ソフト
開発
総合コスト
max_sc595.795.210010010010098.5$8.24
max_fugu_verify95.792.910010010010098.1$8.30
max_cross95.792.910010010010098.1$10.61
routed95.792.997.610010010097.7$0.46
max_panel91.392.910010010010097.4$10.67
single:gpt5695.792.992.910010093.395.8$0.47
cascade_knowledge98.652.497.687.010010089.3$0.0097
cascade94.250.092.983.395.610086.0$0.017

金を積めば買えます(人事・労務 50.0% → 95.2%)。ただし routed1/18 のコストでほぼ並ぶので、5本合議は割に合いません。 なお routed は正規表現がこの設問の文言に一致している疑いがあり、そのまま推せません(→ 12)。

09業界別

99問 × 10戦略 × 3回 ・ ±は反復間の振れ幅

戦略経理税務人事労務法務契約EC物流不動産ソフト総合コスト
verify_fix95.790.510010010010097.7$0.68
routed95.792.997.610010010097.7$0.45
single:gpt5695.792.995.210010093.396.2$0.48
single:sonnet595.790.595.210093.310095.8$0.53
single:fugu91.383.397.692.610010094.1$6.16
single:flash94.264.392.985.297.810089.1$0.005
self_consistency91.376.276.292.695.610088.6$0.16
cascade_2stage91.350.095.285.295.610086.2$0.005
cascade89.950.090.583.395.610084.9$0.005
cascade_verify94.250.081.083.388.910082.9$0.009

この表の読み方には落とし穴があります

「業界の差」の正体はタスク型の差でした。 記憶(法定値)の設問は全99問中、人事・労務の7問だけ。cascade の人事・労務が ちょうど 50.0%・振れ幅ゼロだったのは、14問中7問が記憶設問だったからです。 また業界とタスク型が1:1で交絡しており、統計的に分離できません。 セルあたり n=14〜23 では、10ptの差を検出するのに必要な n=137 に遠く届きません。 この表から「この業界にはこの戦略」とは言えません。 ソフトウェア開発が9/10戦略で100%なのは、設問が簡単すぎて識別力がないという意味です。

10測定の揺れ

主張できなかったこと

同一82問・同一戦略を3回まわした結果です。

戦略正答数(3回)平均コスト
single:fugu70, 72, 7287.0%2問$6.22
cascade68, 69, 7385.4%5問$0.079
single:sonnet569, 72, 6784.6%5問$0.53
cascade_2stage66, 69, 7284.1%6問$0.025
single:flash67, 68, 6882.5%1問$0.009

±6問振れます。この幅を超えない差は「強い/弱い」と言えません。

さらに悪いことに、同一58問・同一モデル・temperature 0 で3回測ったときはこうでした。

1回目  67.2%
2回目  93.1%
3回目  82.8%

n=58 の二項標準誤差は約5ポイント。空応答もAPIエラーも0件。 原因を突き止めるため「どのモデルがどの上流に流れたか」を記録するAPIを足し、 経路で層化して測り直しました。

10回まわした正答率経路の数
65.5 / 65.5 / 69.0 / 65.5 / 65.5 / 67.2 / 69.0 / 65.5 / 67.2 / 65.53.4pt571/580 が同一経路

再現しませんでした。経路も1つしか観測されず、経路では説明できません。 最も妥当な解釈は「当時修正中だったバグ群(Gemini直の404連鎖・OOM再起動・並列時の認証降格)による環境要因」ですが、 当時の93.1%という高い値は依然として説明できていません。「原因を特定した」とは言えず、「現在は安定している」までです。

11本番実装での検証

182問 × 2回 ・ ラボの再実装ではなく、本番の shitate/orchestrator そのもの

戦略知識(仕様)計算計算(表参照)記憶(法定値)総合利用者負担
google/gemini-3.1-pro 単体100.098.9100.0100.099.7$0.700
shitate/orchestrator(本番)100.0100.096.3100.099.1$0.579
claude-sonnet-5 単体81.796.897.688.291.1$0.549
deepseek-v4-flash 単体96.795.280.576.587.2$0.008

精度はラボの再実装と誤差内で一致しました(実装のズレなし)。問題は値付けのほうでした。 上げ先モデル単体($0.700)に対し、束ねても $0.579 で17%しか安くない。これでは束ねる意味がありません。 原因は「全リクエストが上げ先に回る最悪ケース」で固定単価を決めていたこと(実際の上げ率は23%)。 実際に呼んだモデルごとの実費で課金する方式に変え、単価も $3/$9 → $0.27/$1.33 に下げました。

12自社ベンチマークの欠陥 2件

どちらも「知識のあるモデルを罰していた」

設問: 報酬1,234,567円に税率10.21%で源泉徴収
  こちらの正解: 126,049
  実際の制度  : 100万円超の部分は20.42% → 149,998
設問: 時給1450円 × 9時間 × 割増率25%(端数処理の指定なし)
  こちらの正解: 16,312(16312.5 を単純に切り捨て)
  強いモデル  : 16,317
    「時間外単価 1450×1.25 = 1812.5 → 50銭以上切上げで1,813円
     (昭和63.3.14 基発150号)、1,813×9 = 16,317」

2件目は「$14の高コスト戦略が$0.014の最安モデルに負ける」という逆転として現れました。 色めき立って中身を見たら、負けていたのはこちらでした。

他に取り下げた主張

使ったもの

解説はこちら → 安いモデルは「知らないこと」を自覚できない